人が見たらキャーってなる
人が持ってきたお弁当って、気になりますよね。
じっくり見せてもらいたい。
食べたいわけではなくて、自分の家とは似て非なるおかずのたたずまいに興味があるのです。
たとえば、子どものころ、ご近所の奥さんがひじきをわけてくれた。
そのひじきが手間ひまかけた、こってり豪華版で、私は肉の入っているひじきを初めて見た。
ひじきなるものは、大豆と油揚げの細かいのが入っていて、にんじんが辛うじて色どりになっていて、地味だけれどなんとなく「体にいいものだから食べなさい」みたいな存在感がある。
こちらはこちらでもっと派手なものが食べたいから、なるべくテーブルのあちら側に追放しておくもの、というイメージがくつがえされたわけです。
そこで、お弁当ですね。
人のお弁当は見たいが、自分のはお見せしたくない。
自分のだから何でもいいや、というので、ご飯をぎゅうぎゅういれて、おかずをねじ込んでおく。
いれものはジップロックのタッパーだし、女子力なるものでいったら、氷点下何度という感じ。
文句あるか。
しかし、母が自分に作っていたお弁当よりはこれでもマシなのである。
母は毎日、職場にお弁当を持って行っていたんだけれど、それは地味をはるかに超えた破天荒なものであった。
「とってもおいしいんだよ。毎日お弁当お弁当、って楽しみなんだから」
と言っていたが、われわれ家族は見たのである。
母が焼きサンマの背骨を素手で折り曲げてお弁当に詰め込むのを。
ふたを開けたら、サンマが恨みを込めて立ち上がりそうでしょ。
ポーの小説で、木箱をあけたら中の死体がゆっくりと立ち上がって、「お前が犯人だ」という話があるんですが、それを思い出す。
母の事だからべつに隠しもしないで人目にさらして食べていたんだろうが、職場のみなさんは毎日注視していたのではないだろうか。
私のお弁当を見たらなんと思うのだろう。
「ほう、つつがなく二代目ですね」なんて。
どんなヒロシ
世の中にはいろんな「ヒロシ」がいるよねえ、と考えた。
ちびまる子ちゃんのお父さん。
寅さんの義弟(さくらさんの夫ね)。
『そんなヒロシに騙されて』のヒロシ。
私のまわりにはどんなヒロシもいないのだけれど、選ぶのであれば、寅さんの義弟のひろしさんが偉いと思う。
まあ、この三択っていうのが無理があるのだけれど。
ひろしさんって本当にできた人なのですよ。
寅さんが付け焼刃の知識を披露する。
「それ、どういう意味だい」と(タコ社長あたりから)聞かれて、答えに詰まると寅さんは、「どうだひろし、お前ちょっと説明して見ろ」なんていうわけです。
するとひろしさんは、嫌な顔も見せずに、ちゃんと首のタオルなり手ぬぐいなりをとってから、「それはね、兄さん、僕はこう思うんですが、」と話し始める。
えらいな~、ひろしさん。できた人でしょう。
こういう人ならば、どんなくだらない質問、例えば
「トシちゃんとマッチって、どっちが年上なんだっけ?」とか、
「鴎外の『雁』ってさ、『がん』って読むんだっけ、『かり』だっけ?」
を交互にされてもきっと嫌がらないだろうと思う。
実にこの二大愚問は、私が何度教えてもらっても答えを忘れちゃう疑問なのです。
従って、この二大愚問に親切に答えてくれそう、または気兼ねなく聞けそう、というのが私のある種の判断基準になっているわけです。
他の2人のヒロシだったら、絶対答えてくれなそうでしょう。
そういうわけで、私は常にひろしさんにエールを送っている。
笑点、じゃなくて焦点
間のいい人、悪い人って、いるなあと考えた。
でも、それって本人の資質ではないような気もする。
場の「ピント」の問題だろうという気がするのです。
大学のとき、やたらと遅刻する人が多かった講義があるんですね。
ぱらぱらと遅れて入ってくる。
大学生ってそんなもんだろうと思うんだけれど、ある日教授が怒り出してしまった。
その怒り方が白洲次郎的で(白洲次郎がそういう怒り方をした、ということではなくて、NHKドラマで以前、ある俳優さんが演じていた「白洲次郎」に似ていたわけです。"Shame yourself !!"って叫ぶ感じで、眼光鋭く)、我々大学生なのに、ちょっと情けない叱られ方をしていた。
遅れて入った人たちが前に並ばされたりして。
やっと解放されて、皆が席に着いたときに、またガラガラ~っと扉が開いて、男子学生が入ってきた。
「なんで遅れた!!」と問われて、彼は3秒くらい考えてから、こう答えたんですね。
「電車が遅れたので・・・」
ウソつけ~という無言の叫びがこだましたと思う。
「・・・そうか」と教授はあっさりその人を席に着かせた。
これが場の「ピント」なんだろうな、と思うわけです。
「遅れた人を怒る(まあしかたないよね)」から「そろそろ講義をはじめようぜ」に焦点があった。
ピントで面白いのは、一度焦点があうと、他には目がいかなくなる。
その場に何人いても、ですよ。
場のピントがきゅうっと1点に絞られるときと、ばらばらっとするときと、あるのだろうと思うのです。
今どんなところに焦点があてられていて、逆にそれ以外のところには何があるのか、というようなものの見方もあると思うのです。
「みなさんに悲しいおしらせがあります、、、」
おいしそうなりんごを注文して、楽しみに待っていたら届いたのがりんごの苗だった、という話を読んだことがある。
おお、私と同じあなたよ。
りんごとりんごの苗ならば、それほどの違いは、、、、あるけれど親子の関係ではないか。
何年かかるかわからないが、やる気になれば(あなたと苗が)、りんごを授かるではないか。
と思ったものである。
いいですか、それに比べて私なんて、こんなことをしちゃったのですよ。
友人の結婚披露宴に参加すると、引出物をいただきますね。
最近では、カタログをいただいて、自分の好きなものが選べるなんて趣向のものもありますね。
こんなときに何を頼むか。
うきうきワクワク、最初から最後までなめるようにカタログを見る。
普段の自分では買わないものがほしいな、という気になる。
あれやこれやと目移りしたあげく、私が選んだのは「世界名作映画DVD」だった。
自腹じゃなかなか買う気にならないし、家族で一緒見見られるし、自分の選択の正しさに満足したのです。
その時は実家暮らしだったので、「みんな、楽しみにしていてね!」と家族に宣言していたのである。
何日かたって、注文した会社から平たい箱が届いた。
おお、来た来た。
箱を開けてみたら、そこにあるのはなんと、「植木ばさみ(盆栽用)」だったのです。
なんですかなこれは?という考えさえ頭に浮かばず、固まること数分。
私はしずしずと立ち上がり、茶の間に行って家族に告げたのである。
「みなさんに悲しいおしらせがあります、、、」
柴犬にバンダナ
1つ1つを見ると何とも思わないのに、組み合わせると萌えポイントがぐんぐん上がる。
そういうポイントはありませんか?
例えば、柴犬が首輪にバンダナを結わえてもらっている。凛々しさと賢さが倍増して見える。
最近はあまり見ないけれど、オカリナを吹くおじさんが額にまくバンダナ、こういうのは全然ポイントが上がらないのだけれど。
それから、2人というか2匹で遊ぶ猫。
1人というか1匹が、駐車場の車の下から顔だけ出して「なぅ」と呼ぶ。
近くの垣根から足だけ出していたもう1人というか1匹が、路上にでてきて、2人というか2匹で路上を走り去っていく。
かわいいのう。『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラみたい。
温めたアップルパイに冷たいクリームの至福。
おじいさんと和服の美。したたかさと貫禄が底光りして見える。
組み合わせの妙って、発見するとほくほくしてしまう。
この世にはまだまだ、掘り出し物の種がたくさんあるに違いないと、晴れやかになるのだ。
「指定席ですか、自由席ですか?」
新幹線で隣に座った知らない人と結婚した友人がいる。
同じ会社で働いていた女の人なのだけれど、あるとき出張で大阪にいかなくてはならなかったのです。
本当は翌日朝でも間に合ったのだけれど、ちょっと余裕を持っていこうかなと思い、前日の新幹線にしたそうだ。
ところが、トンネル事故で新幹線が途中、停まってしまった。
それも5時間も。
隣に座っていた知らない男の人となんとなく話すようになり、連絡先を交換し、会うようになり、そして結婚したのです。
隣に座った人は、友人の結婚式に参加した帰り。
披露宴でも二次会でも、期待していたような出会いもなく、ちょっとがっかりしながらの帰路だったそう。
「おお~」と話を聞いた私たち会社の同僚はどよめいたね。
「そんなすてきな出会いがあるなんて・・・」
「なんとラッキーな・・・」
「運命の出会いってかんじ・・・」
とうっとりしているときに、誰かが鋭い質問をした。
「指定席ですか、自由席ですか?」
みなさん、どっちだと思いますか?
「自由席」だったのです。面白いでしょう。
出会いのポイントって、「自由席」なんだと思ったのですよ。
なんというか、その保険のかけていない感じが。
年を食ってくると、なにごとにも保険をかけてしまいがちでしょう。
それも安心だし、心地の良いことだけれど、たまには「自由席」みたいなことをやってみようかなと思ったわけです。
そして結婚したら「指定席」にするのですよ・・・(以下妄想)
彼は時代を先取りしていたかもしれない
普段、電車のなかで無数の他人とあっているわけですが、おのおのの活動にいそしんでいて、コミュニケーションをかわす、というまではいかない。
立ちながらマニュキュアを塗り、乾かすために手を振りながら、「危ないんでこっちにこないでください」と指示する女の子がいる。
通勤電車で手の甲を脱毛器でケアしていた女の子を見た、とショックを受けていた上司がいる。
フルメイクをはじめる年季の入った女性。なにしろこの人は「乳液」から塗りはじめたのである。
ドラマチックな光景が繰り広げられる車内で、うちの妹が昔、こんな体験をした。
座席ちかくに立っていると、近くの男の人がしきりに自分の携帯画面を妹に見せてくる。
知らない人ですよ。
絶対、卑猥なる画像を見せてきている変な人だ、と思いますよね。
嫌だな、と思っているうちに、視界に入るその人の携帯画面が画像ではないらしいことに気がついた。
でか文字モードかなんかで、何か書いてある。
つい読んでみると、「後ろのおじさんがくすぐったそうです」とある。
え?と思って振り返ると、ちょうど後ろに座っているおじさんの、すべすべした頭頂部に、妹のフードのファーがさわさわと触れていた、という話。
もう10年くらい前の話なのだが、不思議とこの話が忘れられない。
全方位的な気遣いといい、テキストで間接的に伝達することといい、少しの気持ちの悪さといい、なんというか大げさに言えば、このSNS時代のコミュニケーションを先取りしていた、という感じもするのですよ。