だれも欲しがらなかった指輪の話
私は、不思議ないわれの指輪を長年もっていて、それをどうすればいいのかわからないのです。
別居していた父が亡くなったあとに、母がその指輪を前に話してくれました。
私たち三姉妹が初めて聞く話。
「お父さんがお母さんにくれた指輪でしょ。お母さんが持ってたら?」
だれかこの指輪ほしかったら、あげるよ、という母にそう答えたら、意外なことを言いだしたのです。
「だって、お父さんがお母さんにくれたものじゃないもの」
結婚前に好きだった女のひとにあげようとしたら断られたんだ、と父が言っていたそうです。
お年ごろだった私たちはいっせいにぴちぴちと反応しましたね。
「そんなことまでお母さんに話してたの?」
「あれだよ、お父さんって不器用だから・・・」
「2回目くらいのデートでスチャっと指輪を出しちゃって・・・」
「・・・『いただけません』とかってドン引きされたんでしょ」
わあわあ好き放題いったあと、やっぱりだれも欲しがらなかったのです。
では私がお預かりいたしましょう、というわけで手元にある指輪。
父なりに吟味したであろう、パールが1粒ついているかわいらしい指輪です。
49歳になるまで生きた父のことを考えると、あまりに早く過ぎた1日のおわりの夕焼けのイメージが重なるのです。
さて、「我こそがその指輪を継ぐものなり」というかた、いらしたらお気軽にお知らせください。
私たちは私たちで楽しく話そうではありませんか。