なぜかそうなっちゃう
私はもともと、たいへんぶきっちょであり、そのうえ音痴・運動音痴・方向音痴の三種をそろえている。
だが、自分が不得手なことに限って、心の中では「あの人よりはマシだ」と心を慰めていることも事実である。
こういう心の働きは、誰しもあるものではないだろうか。
運動神経のないお笑いのひとを集めた番組が人気があるのも、このような心理と関係があるような気がする。
まあ、私にとってはあの番組はぜんぜん面白くなくて、というのも、彼らと同じような不体裁を今まで人目にさらしてきたのではないかと思うからである。
ようするに、「同じくらい下手な人」ではなぐさめにならないわけですね。
ただ、音痴についてはいつまでも忘れられないできごとがある。
通っていた中学は、全校生徒で合唱することに力をいれていた。
合唱はあまりにスパルタ式に指導されるといやなものだろうが、単純にみんなで大きな声で歌う式だと、気持ちのいいものである。
私たちの学年の卒業式の日に、卒業生・在校生がそろって『贈る言葉』を歌った。
武田鉄矢が歌っていた、あの歌である。
おじさんの先生の好みのまんま選曲したんだろう、と今になっては思うが、情緒があっていい歌である。
歌のなかで「贈る言葉」と歌詞が繰り返されるのを知っているでしょう、みなさん。
あの聞かせどころの入りを、一拍はやく歌ってしまう人がいたのである。
それも、リフレインふくめて全部である。
1か月後に、卒業生全員に「思い出の合唱~卒業によせて~」というCDが学校から届いた。
最初から最後まで、サビで一拍はやくがなっている声が収録された『贈る言葉』を聞いて、家族全員、笑いくずれて立っていられなかったほどである。