LED礼讃
震災以降、会社の照明がLEDに変わったという人も多いのではないでしょうか。
前の会社で、全社LEDに変わったとき、始めのうちは目がぱちぱちするほど明るく感じた。
「明るいね」
「そのうち慣れるかも」
と話し合っていたのだけれど、そのときに、「この明るさに喜んだろうに」と思い出した人がいた。
仮にKさんとしておきましょう。
Kさんは中途入社の男性で、たいへんおとなしい人であった。
スーパー草食系というか、おひなさまみたいでおしとやかだなーと思った覚えがある。
入社して半月ほどたったときに、「何か職場で困っていることはありませんか?」と声をかけてみた。
私としては、あれですよ、「目配りのきく先輩」ふう、「私ってとっても気遣いさん」と自画自賛気味なモードだったわけです。
すると彼は、
「男子トイレの電気が暗いんです」
と静かに言うではありませんか。
知らんよ。知るわけがない。
「暗いんですか?そうなんですかね?」
と答えながら、この話題を誰かにうまく振れないかと探したのだけれど適当な人が出払ってしまっている。
「暗くて怖いんです」
と静かに言われると、そ、それはお気の毒に、という気になって、
「じゃあ、ちょっと誰かに聞いてみるね」
と答えておいたわけです。
そのあと、同僚のだれかれに、「あの、男子トイレの電気が暗いって、困っている人がいるんですけれど」と言ってみた。
すると、会社生活に煮詰められて半おじさんに仕上がっている同僚は、
「トイレが暗い?トイレは暗いもんだろう!」
と言い出す。
『陰翳礼讃』ですね。
「そーだそーだ、メイク直すわけじゃなし!」
とこっちも同意したい気持ちが半分、やはり気の毒に思う気持ちが半分というところ。
「悪いのだけれど、一応さ、総務にさ、聞いてみてもらえる?」
と頼んで、結局は電球を変えてもあまり明るさは変わらないということが分かった。
Kさんも「わかりました」と静かに頷いていた。
で、割と短期間でKさんはそのあと退職されてしまうのだけれど、ずっと「トイレが暗いと言っていたKさん」が記憶に残っていたのです。
Kさん、会社のトイレのLEDになりましたよーと。
明るいトイレのある職場で、元気にやっていることを祈る。